【執筆者】整形外科医 竹谷内 康修
慈恵医大卒。福島県立医大整形外科に入局。米国のナショナル健康科学大学でリハビリ技術を習得。2007年東京駅の近くで開業。著書・マスコミ掲載多数。
臀部痛とは
お尻の痛みを臀部痛といいますが、腰痛の一部としてよく現れます。そのほかに、仙腸関節や股関節などの関節、お尻にある筋肉や靭帯、坐骨や尾骨周囲の靭帯の障害などでお尻が痛くなります。さらにおしりの痛みは、腰の神経を傷めて発症する坐骨神経痛の部分症状の場合もあります。
おしりが痛いときは、右側や左側など片側だけのこともありますが、両側に同時に起こることもあります。
おしりが痛いときの症状の現れ方
・歩くとおしりが痛い
・おしりの横が痛い
・おしりの真ん中の骨が痛い
・中心が痛い
・おしりの横が痛い
・お尻の筋肉が痛い
・臀部の上部に痛みがある
・お尻の下部が痛い
・座るとおしりが痛い
・座った後に立つとお尻が痛い
臀部痛の場所や部位
お尻が痛い部位がどこの辺りかを把握すると、そこに何があり、障害を受けているのか知る手がかりとなります。お尻の痛みの部位は主に7か所に分けられますが、複数の場所にまたがることもあります。
臀部痛の7つの場所や部位
1. おしりの真ん中、中心部
仙骨がある場所です。ここのお尻の痛みの多くは腰痛の一部として現れます。臀部痛の中でも、この部位の痛みは特によく見られます。仙骨は脊柱の一番下に位置する逆三角形の骨で、腰椎と尾骨の間にあります。ここに臀部痛が現れる場合、第5腰椎と仙骨の間にある椎間関節や椎間板の障害、仙骨表面にある多裂筋の緊張が原因として考えられます。仙骨自体の異常が臀部痛の原因となることはまれです。
2. お尻の中心の少し外側
仙腸関節のある部位です。仙腸関節は、お尻の真ん中にある仙骨と、骨盤の外側にある腸骨を結びつけている部位です。そこに不良姿勢などによるストレスがかかり、仙腸関節障害による臀部痛が発生します。この部位の臀部痛は、長時間の座位や立位、また急な腰の動作によって悪化することがあります。仙腸関節障害による痛みは、お尻の中心からやや外側に位置し、時として鼠径部の痛みを伴ったり、太もも、すね、ふくらはぎなどにも痛み、しびれが現れたりすることがあります。
3. おしりの横の上部
ここの外側には中殿筋と小殿筋、内側には大殿筋があります。中殿筋や小殿筋は、歩行時の骨盤の安定性に重要な役割を果たしています。姿勢の悪さや長時間の同一姿勢によってそれらの筋肉が疲労して、臀部痛が生じるようになります。また、筋肉以外の原因として、腰からお尻の横の上部向かって走る上殿皮神経が圧迫されて、お尻の横の上部に痛みを起こすことがあります。
4. 片側のお尻の真ん中あたり
表面には大殿筋、その下には梨状筋があり、さらにその奥に股関節があります。梨状筋症候群や股関節障害で痛む場所です。梨状筋症候群は、ここの部位の痛みに加え、太ももの裏側、あるいはふくらはぎのほうにまで痛みやしびれを伴います。股関節障害がある場合は、立ち上がり動作の時や、股関節の屈伸動作、あぐらの格好をとるときなどにここに痛みが現れます。この部位で大殿筋が傷むことはまれです。
5. おしりの横の下部で骨が出ているところ
大腿骨が横に大きく張り出している大転子がある部位で、その表面には腸脛靭帯があります。この部位の臀部痛は、主に大転子滑液包炎が原因で発生します。ランニングやサイクリング、階段昇降などの繰り返し動作によって大転子と腸脛靭帯がこすれて引き起こされます。
6. おしりの片側の下部
坐骨結節という骨の出っ張りがあり、当たって痛みがでることがあります。この部位の臀部痛は、長時間座っていたり、硬い椅子に座ったりすることで悪化する傾向があります。坐骨結節周辺の筋肉や靭帯の炎症も、この部位の臀部痛の原因となります。坐骨結節のすぐ近くを通る坐骨神経や後大腿皮神経が圧迫されて痛みを起こすこともあります。
7. おしりの中心の下部
尾骨があり、尾骨部痛を起こすところで、強い不快感を伴うことがあります。尾骨は脊椎の最下部に位置し、座位や立ち上がり動作で特に負荷がかかります。尻もちなどの転倒や出産時のトラウマなどが原因で尾骨部痛が生じることもあります。骨盤底筋群の過度な緊張も尾骨部に臀部痛を起こす原因となります。
おしりの痛みの原因となる病気の種類
おしりが痛い原因の病気は以下のように多数の種類があります。前出の「臀部痛の7つの場所や部位」の写真と照らし合わせながら読んで下さい。
腰痛症
写真の1の部分のお尻の痛みは、腰痛症で起きます。
主な原因は、第5腰椎と仙骨の間の椎間板や椎間関節の障害です。また、仙骨の表面にある多裂筋が固くなって痛むこともあります。それらによって、お尻の真ん中に痛みが生じます。
仙腸関節障害
仙腸関節は写真の2の部位にあります。
仙腸関節は、仙骨と腸骨の間の関節で、ごくわずかに動きます。猫背などの悪い姿勢で仙腸関節に負荷がかかり続けると、傷めて痛みが現れます。写真の2の周辺の臀部痛に加え、鼠径部(あしの付け根)など、股関節周囲に痛みが起きることもあります。さらに、坐骨神経痛と似たような、太ももやすね、ふくらはぎに痛み・しびれを生じることがあります。これを仙腸関節障害あるいは、仙腸関節炎、仙腸関節痛などと言います。
仙腸関節障害はレントゲンでは判別できませんので、仙腸関節の周囲を押したり、動かしたりする検査により、仙腸関節が原因でお尻が痛いのかを診断します。
仙腸関節障害で起きるお尻の痛みは、病院によっては単に腰痛の一種として捉えてしまい、それ以上原因を追究せずに見逃されやすい症状です。
参考文献:仙腸関節由来の疼痛の診断と治療
股関節障害
股関節は写真の4の奥にあります。股関節にある軟骨や骨の障害で臀部痛が現れますが、その場所は、お尻の片側の中心部である4を中心に、3、5、6といった上側、外側、下側にも広がることがあります。
股関節障害でも頻度が高い変形性股関節症とは、股関節の軟骨が加齢によってすり減り、臀部痛や足の付け根の痛み(鼡径部痛)、お尻の横の痛み、大腿部痛などを起こします。50代以降の女性に多く発症します。椅子から立ち上がる、歩くなどの動作でおしりが痛い場合が多いです。また、股関節の動きが悪くなります。足の開きが悪く、あぐらをかきにくい人は要注意です。
臀部痛を起こすその他の主な股関節障害は、大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)や股関節唇損傷です。
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)とは、大腿骨頭や寛骨臼の形が生まれつきに悪く、股関節を動かした際に、ぶつかりあって痛みを生じる障害です。
股関節唇損傷は、運動などの繰り返し動作で、関節唇という股関節を安定化させる軟骨が切れてしまい、痛みを起こす障害です。
梨状筋症候群
梨状筋は写真の4の深いところにあります。梨状筋症候群では写真の4を中心としたおしりの痛みに加え、太ももや、ふくらはぎ、すねなどに痛みやしびれが広がります。
梨状筋症候群は、梨状筋が緊張して固くなったり、太くなったりして、その下を通る坐骨神経を絞めつけて起きます。足を組むなどの不良姿勢や長時間の座位で発症しやすいです。
また、スポーツも原因となります。同じ動作を繰り返すランニングやサイクリング、急激な動作を伴うサッカー、テニス、バスケットボールなどは、梨状筋症候群による臀部痛を引き起こすことがあります。
中殿筋・小殿筋の筋肉痛
中殿筋や小殿筋の筋肉痛は、写真の3の辺りや、骨盤の真横に現れます。
歩くとおしりの横が痛い場合、中殿筋や小殿筋の筋肉や腱が原因となっていることが意外と多くあります。それらの筋肉は、骨盤の姿勢を維持しようとして働くため、激しい運動のあとなどに臀部に痛みを起こすことがあります。
最近、この障害を次に説明する大転子部滑液包炎も含んで、大転子部痛症候群と呼ぶようになりました。
大転子部滑液包炎
大転子部滑液包炎は写真の5付近のお尻の横に痛みを起こします。
大腿骨の大転子(前出の股関節障害のイラスト参照)は、左右に最も幅広いおしりの部分にあります。大転子は横に張り出していて、その上を腸脛靭帯が覆っています。腸脛靭帯は、骨盤から始まり、太ももの外側、さらに膝に達する長くて幅広い靭帯です。
ジョギングなどで腸脛靭帯と大転子が繰り返し擦れると、お尻の横の出っ張っているところに痛みを起こします。悪化すると、太ももの外側も痛くなり、歩く時に足を引きずるようになることもあります。
坐骨結節痛
写真の6のあたりは、坐骨結節といい、座ったときに椅子に当たる部分です。
坐骨結節には、ハムストリングという太もも後面にある筋肉や大内転筋、下双子筋、大腿方形筋といった筋肉に加え、仙結節靭帯など、様々な組織が付いています。
デスクワークなどで、長時間硬い場所に座ると、慢性的な圧迫により、坐骨結節の表面にある滑液包という組織に炎症が生じて、坐骨結節滑液包炎による臀部痛を引き起こします。
また、スポーツで筋肉を酷使すると、坐骨結節付近の筋肉、腱に炎症を生じて痛むことがあります。
さらに、最近注目されている病態なのですが、坐骨結節のすぐ横には、坐骨神経や後大腿皮神経という神経が走っており、それらの神経が圧迫されて、痛みやしびれを発生させることがあります。
尾骨痛
写真の7のあたりには尾骨があります。
尾骨痛は、患者さんがお尻の先が痛い、あるいはお尻の真ん中の下が痛いと訴えます。座ると尾骨が当たって痛みが出るので厄介です。
尾骨部痛の原因の一つは骨折ですが、激しく尻もちをついた場合に限られます。
一方、怪我をしていないのに、尾骨が痛み、困っている患者さんがたくさんいます。そのような方は、病院に受診をしても、往々にして、痛み止めなどによる対症療法だけで治療されています。
尾骨には、尾骨筋や骨盤底筋群の肛門挙筋などの筋肉や、様々な靭帯も付いているので、それらが尾骨に刺激を与えて痛みが生じていることがあります。それらに対する治療が効果的です。
お尻の痛みが坐骨神経痛の一部として現れる病気
前述の梨状筋症候群と、以下に紹介する腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアは、坐骨神経痛を起こす病気です。坐骨神経痛では、お尻から足にかけて広い範囲に痛みがでますが、お尻が痛いのは、その部分的な症状に過ぎません。
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症は、脊柱管の中心部や、脊柱管の出口付近が加齢現象で狭くなり、そこを通る坐骨神経が圧迫され、坐骨神経痛を起こす病気です。坐骨神経痛は、お尻が痛いだけでなく、太もも、ふくらはぎ、足の甲や足底に痛み、しびれを伴います。
参考文献:Clinical Symptoms and Surgical Treatment of Lumbar Spinal Canal Stenosis
腰椎椎間板ヘルニア
背骨には椎間板という軟骨が椎骨と椎骨の間にあります。椎間板が傷んで中身の軟らかい部分(髄核)が飛び出てしまうことを椎間板ヘルニアと言います。
腰椎椎間板ヘルニアによって腰の神経(坐骨神経)が障害を受けると、お尻、太ももの裏、足に痛みや痺れを感じます。その症状を坐骨神経痛といいます。多くの場合、悪い姿勢や前かがみの動作などで腰に負担をかけて腰椎椎間板ヘルニアが起こります。靴下をはく動作や、膝を伸ばしたまま床に座ることで臀部痛や足の症状が悪化します。
この臀部痛は危険な病気ですか?
臀部痛で、放置してはいけない危険な病気は感染症や悪性腫瘍です。
熱がある、じっとして動かなくても痛い、横になって寝ても痛い、痛みで夜に目が覚める、腫れがあって大きくなってきている、体重が急に減ってきている、などが危険な病気のサインで、早急な受診が必要です。
臀部痛でこのような危険な状態は滅多にありませんのでご安心ください。
お尻の痛みだけでなく、太ももや、足へ痛み、しびれ(坐骨神経痛という)がある場合は、それぞれの病気の状態によって危険かどうかが変わります。
臀部痛はどのくらいで治りますか?
軽度の臀部痛なら数日~2、3週間で改善することが多いです。神経性や関節性の場合は長引くことがあり、数か月以上かかることもあります。
特に、お尻の下部(前出の6番)にある坐骨結節という骨の出っ張りの辺りが座っていると痛くなるケースは、鎮痛薬等の一般的な治療では治りにくく、早期に適切な診断と治療を受けることが大切です。
おしりが痛い人は病院の何科を受診する?
お尻が痛いときには、病院の何科に行けばよいのでしょうか。それはもちろん整形外科です。このページを読んだ方は、既にご自分のどこが悪く、どの病気なのか見当がついているかもしれません。整形外科で、もしご自身の考えと違う診断を言われたら、考えを伝えて医師の意見を伺うことをお勧めします。
臀部痛はどのように診断しますか?
まずは詳細な問診を行います。次に痛い部位やその周辺を入念に触診し、どこが傷んでいるかを確認します。また、腰椎、股関節、下肢を様々な方向に動かして、痛みが誘発されるかをみます。このような診察で原因を推定します。必要に応じて以下の画像検査を補助的に行って診断します。
・X線検査(骨の変化、関節の異常を確認)
・MRI検査(椎間板ヘルニアや神経の圧迫を確認)
・超音波検査(筋肉や軟部組織の評価)
ブロック注射で痛みの発生源を特定する場合もあります。
病院でのお尻が痛い人への治療法
前述の病気に合わせた治療を行いますが、基本は、消炎鎮痛薬等の痛み止めの内服薬や湿布を使います。
鎮痛薬で改善しない場合の積極的な治療として、トリガーポイント注射、関節注射、神経ブロック注射、ハイドロリリースなども行われます。
リハビリとして、痛みがある場所へ物理療法(ホットパック、超音波、干渉波など)を行ったり、理学療法士がストレッチ体操やマッサージなどの運動療法をしてくれたりすることもあります。
病院で原因にしっかりと対応した治療を受けられるかが、早く良くなるかの分かれ目と言えるでしょう。
薬を長く飲んでも大丈夫ですか?
痛みに対して、病院で最も処方される消炎鎮痛薬は、胃の痛みや胃潰瘍などの消化管障害や、腎機能障害といった副作用がよく知られています。薬には体に有害な面もあるものなのです。ですから、長期間にわたって消炎鎮痛薬を服用しつづけるのは、お勧めしません。
薬を長く服用しているのであれば、治ってきていないということです。今後も同じ薬を使い続けても効果は限られるかもしれません。医師に相談して、違う種類の薬に変えてもらうとよいでしょう。
ほぼ全ての薬に副作用がありますので、どのような薬でも、長期間の使用には注意が必要です。
お尻の痛みの当院での治療法
おしりの痛みは上記の通り、さまざまな原因で発症し、病気ごとに治療法が異なります。リハビリが専門の当院では、病態に合った専門的な治療を医師が直接行っています。臀部痛の当院での治療法は別のページで解説しています。