【執筆者】整形外科医 竹谷内 康修 

慈恵医大卒。福島県立医大整形外科に入局。米国のナショナル健康科学大学でリハビリ技術を習得。2007年東京駅の近くで開業。著書・マスコミ掲載多数。

最終更新日:2020年11月19日 公開日:2019年12月13日

手のしびれには、様々な症状のあらわれ方があります。

・手の親指から薬指にかけてしびれる

・手の小指側がしびれる

・人差し指や中指を中心にしびれる

・手と腕の全体がしびれる

・肘の内側から小指にかけてしびれる

・手と腕のしびれに加え、腕に痛みがある

・指先がしびれる

手のしびれの原因

手のしびれは、主に神経や血管の圧迫が原因で起こります。そのため、手のしびれの原因を探る際、どこに圧迫があるかを探すことになります。

頚椎、鎖骨、肘、手関節のあたりに神経や血管の圧迫がみられるケースが大半です。

糖尿病などの一部の病気では、圧迫がなくても神経が傷んで手がしびれることもあります。

参考文献:手のしびれ,手関節・手指痛を来す疾患

手のしびれを起こす主な病気の解説

頚椎症性神経根症(頚椎症)

頚椎症性神経根症とは、頚椎の変形などにより神経が圧迫され、手のしびれ、腕の痛みやしびれなどの症状が出る病気です。特に、首をうしろに反らすと首の痛みや肩・肩甲骨部の痛み、手や腕のしびれ等が強くなります。

頚椎症性神経根症は主に加齢変化によって生じるので、40代や50代以降の中高年者に多い病気です。しかし最近ではデスクワーク中の姿勢の悪さにより20代や30代でも見られます。長年、肩こりに悩まされている人に発症するケースが多いです。

また、頚椎の何番目の神経が圧迫されるかによって、しびれが手や腕の親指側あるいは小指側に現れるなど、特徴的なパターンがあります。通常は片方の腕や手にしびれや痛みが出ます。 頚椎症性神経根症による手のしびれは、右手より左手に起きることが多いです。

頚椎症性脊髄症

頚椎症性脊髄症とは、頚椎の加齢変化により脊柱管が狭くなり、脊柱管を通る脊髄が圧迫されて神経症状が現れる病気です。

最初に現れる症状として最も多いのが、手足のしびれと感覚の異常です。手先、足先に症状がまず現れます。手の細かい動作がしにくくなる、手足に力が入りにくくなる、歩き方がぎこちなくなるなど、様々な症状が出てきます。

進行すると手術を受ける必要性があります。

頚椎椎間板ヘルニア

7個ある頚椎の椎骨の間にある椎間板という軟骨が、加齢変化や強い衝撃などが原因となり、後ろに飛び出して神経を圧迫することで、手や腕・足などにしびれや痛みの症状が出る病気です。頚椎症性神経根症と症状はほとんど同じで、首を反らすと症状が悪化します。頚椎椎間板ヘルニアは、姿勢の悪さなどで首に負担がかかって椎間板にひびが入り、椎間板が後ろに膨らんで手に神経症状が起こります。

胸郭出口症状群

胸郭出口症候群とは、首から腕に行く神経・血管が、鎖骨と第一肋骨の間で圧迫され、腕や手のしびれ、痛みなどの症状が出る病気です。腕を上げていると手や腕全体にしびれや痛み、脱力感、重だるさ、握力低下などの症状が出ます。

神経や血管が圧迫される原因は、大半が神経や血管を覆っている筋肉が強く緊張して、神経や血管の通り道を狭くしてしまうことにあります。まれに骨折などによる骨の形の異常が原因のこともあります。筋肉が強く緊張する原因は、姿勢が悪く、首や胸の筋肉に過剰な負担をかけてしまうことです。つまり、胸郭出口症候群の多くは、筋肉の過緊張が原因で手のしびれを起こします。

手根管症候群

手首の手のひら側には、手根管という骨と靭帯で囲まれた部分があります。その手根管の中を正中神経が通っています。手根管症候群は、様々な原因で手根管の中で正中神経が圧迫されて手のしびれや痛みの症状を起こす病気です。正中神経は、親指、人差し指、中指、薬指の中指側半分の感覚をつかさどっているため、手根管で正中神経が圧迫されると、それらの指にしびれや痛みが出ます。

朝の寝起きの時に指のしびれを感じることが多く、ひどくなると睡眠中に手のしびれや痛みで目が覚める事もあります。中年以降の女性に多く発症します。夜間や朝に手のしびれが強い場合は、手首のサポーターが有用です。

また妊娠中は体のむくみによって手根管の圧迫が強まるため、妊婦さんにも多く起こります。妊娠中は薬物を使いにくいため、当院で行っているような手によるリハビリ治療とレーザー光線の照射での治療が望ましいです。

肘部管症候群

机などに肘の内側をぶつけると手がしびれる場合がありますが、ぶつけてしびれが出た肘の内側部分を肘部管といいます。肘部管には、尺骨神経が走っていて、強く圧迫されるとしびれの症状を起こします。

尺骨神経は手の小指側の皮膚感覚を伝えているので、肘の内側をぶつけると小指がしびれます。つまり肘部管症候群は、肘部管を通る尺骨神経が何らかの原因で圧迫されるか、あるいは引っ張られ続けるかすると、手の小指側のしびれが生じる病気です。

脳梗塞

脳梗塞も手のしびれを起こす病気の一つです。ただ、手のしびれ以外にも様々な症状を併発します。例えば、手足を動かしづらい、手足に力が入らない、しゃべりづらい、めまいやふらつきがある、よだれがこぼれる、箸をうまく使えない、よく目が見えないなどです。急に手のしびれが発症し、これらの症状を伴うなら脳梗塞を疑いますが、手や腕のしびれ痛み、首肩の痛み以外の症状が無ければ、脳梗塞の可能性はとても低いと考えられます。

ストレス

ストレスは病気ではありませんが、仕事が忙しい、人間関係が上手くいかないなどのストレスがあると、無意識に筋肉が緊張し、筋肉の周囲を走行する神経・血管を圧迫することがあります。ベースに前述の病気があり、ストレスで悪化して手のしびれが起きることがあるのです。

参考文献:手のしびれ,手関節・手指痛を来す疾患 (特集 プライマリケアのための骨・関節疾患の診かた)

手のしびれに対する当院のリハビリ治療

当院では、しびれや痛みの原因となっている神経や血管が圧迫されている場所を見つけるだけでなく、なぜ圧迫が起こってしまったのか原因を詳しく分析します。多くの方は姿勢の悪化によって首や肩に負担がかかり、その結果として骨や筋肉などで神経の圧迫が起こっています。

そこで当院のリハビリ治療では、緊張した筋肉を緩め、背骨や肩、腕、手首などの関節を調整し、神経の圧迫を取り除きます。そして、根本的な原因である姿勢の悪さを解消します。さらに患者さんの体の状態に合わせて、体操や生活指導を行うことで、再発の防止も行います。

当院では手根管症候群、肘部管症候群の治療にレーザー治療器も使用し効果を出しています。神経が圧迫されている部位にレーザー光線を照射すると、圧迫されて傷んだ神経が回復し、しびれが軽減します。レーザー治療は薬や手術などと違い、体に負担がかからず安全で有効な治療法です。

手のしびれで病院の何科に行けばいい?

手のしびれで何科を受診すればよいのかは患者さんが迷うところです。前述の脳梗塞の症状も伴う場合は脳神経外科に直ちに行くべきです。そうでなければ病院の整形外科に行くのがお勧めです。整形外科で診断がはっきりしない、あるいは治らないときには、神経内科に行くとよいでしょう。

ペインクリニックでも手のしびれを治療しているため選択肢の一つではあります。しかし、ペインクリニックで行っているメインの治療法の神経ブロック注射は、しびれには効果がほとんどないのと、ペインクリニックは麻酔科出身の先生が多く、診断は得意でないことがありますので、それらを考慮に入れて選びましょう。

手のしびれが治らないときには、手のしびれは診断が難しいケースもあるので、名医を探して受診するのもよいでしょう。

参考文献:症例問題:手のしびれを訴える患者の検査

病院での手のしびれの治療法

神経の圧迫による手のしびれに対する病院での主な治療法は、薬の服用になります。ビタミンB12製剤が最も多く病院で処方されます。しかし実際のところ、圧迫によるしびれにはほとんど効果がありません。残念ながら手の痺れに効く薬は、ほぼ存在しないに等しい状況です。

また、神経や血管の圧迫に対し、リハビリと称して頚椎の牽引が行われることがありますが、効果があるのはごく一部の方に限られます。電気治療などもリハビリの一環で行われていますが、あまり効果はありません。病院でのしびれの治療で有効なものといえば、神経や血管の圧迫を解除する手術に限られるのが実情です。