【執筆者】整形外科医 竹谷内 康修 

慈恵医大卒。福島県立医大整形外科に入局。米国のナショナル健康科学大学でリハビリ技術を習得。2007年東京駅の近くで開業。著書・マスコミ掲載多数。

最終更新日:2020年11月8日 公開日:2020年3月24日

頚椎症性脊髄症のこんなお悩みはありませんか?

・歩行に支障が出てきてしまった。
・手に力が入らなくなった。
・治療を保存療法と手術のどちらにするか迷っている。
・どこでリハビリ治療を受ければいいか分からない。
・お勧めのストレッチを知りたい。
・病院の先生の説明がよく分からない。

頚椎症性脊髄症とは

頚椎症性脊髄症とは、主に加齢変化で起こる頚椎の変形、椎間板の膨隆、靭帯の肥厚などにより、頚椎の脊柱管が狭くなり、脊柱管を通る脊髄が圧迫されて、腕や手のしびれ、手指の運動障害、歩行障害などを起こす病気です。重症になると手術が必要となります。
脊髄は脳から続いている中枢神経で、脊髄から分かれた神経の枝は、四肢や体幹の筋肉・皮膚、さらには内臓にも到達して体の働きをコントロールしています。そのため神経のメインストリームである脊髄が圧迫されると、体の重要な働きが阻害されてしまうことになります。

参考文献:頸椎症性脊髄症

頚椎症性脊髄症の原因

頚椎症性脊髄症は、背骨の加齢変化で脊柱管が狭くなり、中を通る脊髄が圧迫されて起きる病気です。頚椎症性脊髄症を発症する場合、脊柱管を狭くして脊髄を圧迫する原因は一つではなく、下記の複数が同時に起きているとが多いです。
・頚椎が変形してできた骨棘(骨のとげ)
・椎間板が飛び出るヘルニア
・脊柱管内にある靭帯の肥厚
・頚椎のすべり(ずれ)
・生まれつき脊柱管が狭い

頚椎症性脊髄症が起きやすい年齢、性別は?

頚椎症性脊髄症は加齢変化が主な原因で、40代から60代での発症が多く、50代での発症が最多となっています。女性より男性に多いと言われています。

頚椎症性脊髄症の症状

頚椎症性脊髄症で現れる最初の症状は、手指のしびれが最多です。最初は片側の手指にしびれが現れても、次第に反対側の手指にもしびれが現れます。頚椎症性脊髄症の最も特徴的な症状は、両側の手指や腕のしびれです。脊髄の圧迫による下記のような様々な症状が現れます。

参考文献:頚椎症性脊髄症の診療ガイドライン

上肢の症状

・手指のしびれ、腕のしびれ
・手指のこわばり感
・手が不器用になる。具体的には、お箸の扱い、例えばお箸で魚の骨を取ることなどや、書字、ボタンはめ、紐結びなどがしにくくなる。
・手や腕の感覚が鈍くなるなどの感覚障害
・握力の低下
・腕や手の筋肉の萎縮

下肢の症状

・足のしびれ
・歩行で足の運びがぎこちなくなる
・早歩きでつま先が引っ掛かりやすくなる
・小走りできない
・階段の昇降が困難
・足の筋力低下

体幹の症状

・体幹の皮膚の感覚が鈍くなる
・胸部・下腹部の圧迫感・足のしびれ

膀胱機能障害の症状

・頻尿、残尿感、尿勢低下、失禁など

その他の症状

・肩こり、首の痛み

頚椎症性脊髄症の症状の進行の仕方

頚椎症性脊髄症では、前述のような様々な症状が現れます。人によって症状の現れ方は様々ですが、最も典型的な症状の現れ方、進み方を説明します。片側の手指がしびれ始め、やがて反対側の手指にもしびれが現れます。手指だけでなく腕にもしびれが広がることがあります。さらに足にもしびれが出現します。そして、歩きにくい、歩く時に足がぎこちないなどの歩行障害が現れます。また、字を書く、お箸を使う、ボタンをはめるなどの手の細かい動作がしにくくなってきます。通常、最後に頻尿や残尿感など、膀胱機能の低下による症状が現れてきます。

頚椎症性脊髄症の検査と診断法

問診でほぼ診断がつきますが、他の病気を除外するため、また、診断を確定するために診察や検査を行います。
頚椎症性脊髄症では、診察で頚椎を後屈させると、手のしびれや体幹・下肢のしびれが悪化することがよくあります。頚椎症性脊髄症と同様に手にしびれを起こす頚椎症性神経根症では、Spurlingテスト(頚椎を後屈し、さらに側屈させる)を行うと手や腕にしびれが誘発されますが、頚椎症性脊髄症では誘発されません。
ハンマーで叩く腱反射のテストでは、頚椎症性脊髄症において、上腕三頭筋反射や、膝蓋腱反射などが亢進します。Hoffmann徴候やBabinski徴候などの検査も陽性となります。
また、ほとんどのケースで握力は低下します。その他の筋力や知覚検査等も行います。
最後に画像検査として単純X線やCTを行いますが、最終的に MRIを行います。画像上の圧迫部位と、問診や診察で得られた結果が合致すると確定診断となります。

参考文献:頚椎症性脊髄症の診断遅延例の検討

頚椎症性脊髄症が進行して重症になると

頚椎症性脊髄症が進行して重症になると、どうなるでしょうか。まず、しびれが手指や腕、足にも広がります。また、字を書く、ボタンをはめる、お箸を使うなどの手の細かい動きがしにくくなります。さらに、手や腕、足の力が入らなくなります。これを四肢不全麻痺と言います。手が使えなくなるのに加え、足も利かなくなって車椅子生活になります。頚椎症性脊髄症が進行して重症になるのは、とてもこわいことなのです。

頚椎症性脊髄症の治療

頚椎症性脊髄症は、治療が難しい病気です。軽症では改善することがあるものの、保存療法でよくなりにくいです。重症の場合、進行していく傾向があり、自然に改善することはほとんどありません。そのため重症の人の治療は手術になります。軽症の場合は、改善することを期待しながら保存療法をして、経過を慎重に見ていくことになります。

頚椎症性脊髄症のリハビリ

頚椎症性脊髄症のリハビリは、街中の整形外科の病院で行っているところはあまりありません。リハビリが難しく、良い効果を出しにくいからです。ただ、一部の病院でしか行われていない頚椎持続牽引療法は、症状を軽減する効果がある可能性もあります。また、リハビリではありませんが、頚椎カラーの装着も症状の軽減に効果があるかもしれません。

当院の頚椎症性脊髄症のリハビリ治療

当院は、長年の臨床経験を元にして、頚椎症性脊髄症の方に手を使った専門的なリハビリ治療を行っています。それは、頚椎や周囲の筋肉の状態を改善し、脊髄の圧迫を緩和する治療です。

頚椎症性脊髄症のストレッチ体操

頚椎症性脊髄症は、脊髄が強く圧迫されて発症します。下手に首のストレッチ体操を行うと、脊髄が圧迫されている部位へさらに圧迫を加えてしまうことになりかねません。そのため、よほど注意してストレッチ体操を行わないと、症状を悪化させかねません。ストレッチ体操で脊髄の圧迫を緩めれば、改善するのではないかと思うかもしれません。しかし、危険性が高すぎるため、お勧めできません。

頚椎症性脊髄症の手術

・どのような状態やタイミングで手術をしたほうがよい?

まず、手足の麻痺が強い場合は手術を受けたほうがよいと考えられます。例えば、手や腕の力が入りにくい、握力がとても弱くなった場合です。また、足に力が入りづらくなって転びそうになる、あるいは階段の上り下りができなくなる場合などです。

手の細かい動作ができなくなった場合も手術が勧められます。字を書きにくい、お箸を使いにくくなった、小さなボタンをはめにくくなったなどです。これを巧緻障害といいます。
麻痺と巧緻障害の2つが手術をするかどうかの最も重要な要素になります。

他には、頚椎症性脊髄症は進行性、つまり徐々に悪化していく人が多いため、40代や50代などの若年の患者さんは、残りの人生が長いので、早めに手術に踏み切ることがあります。

また、すぐに手術をしないケースでも、徐々に麻痺が悪化している、あるいは巧緻障害がひどくなってきているなど、進行性の場合も手術を選択します。

症状が重い方が長い間手術を受けないでいると、手術を受けても圧迫されて障害を受けた神経が回復せず、症状が改善しないこともあります。ですから進行性や、重症の場合はタイミングを逃さずに手術を受ける必要があります。

・参考文献

頚椎症性脊髄症診療ガイドライン2015
監修 日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会