【執筆者】整形外科医 竹谷内 康修
慈恵医大卒。福島県立医大整形外科に入局。米国のナショナル健康科学大学でリハビリ技術を習得。2007年東京駅の近くで開業。著書・マスコミ掲載多数。
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【執筆者】整形外科医 竹谷内 康修
慈恵医大卒。福島県立医大整形外科に入局。米国のナショナル健康科学大学でリハビリ技術を習得。2007年東京駅の近くで開業。著書・マスコミ掲載多数。
最終更新日:2020年1月24日 公開日:2020年1月24日
腕のしびれの原因で最も多いのは神経の圧迫です。ほかには神経の変性(神経自体の病気)や、血管の圧迫も腕のしびれの原因となります。それ以外の原因で腕がしびれることがあります。腕がしびれる様々な病気を解説します。
頚椎症性神経根症は、中高年の人に腕のしびれを起こす最も代表的な病気です。
頚椎の加齢変化や、姿勢の悪さによる頚椎への過剰な負荷のため、頚椎に骨棘(骨のとげ)ができます。頚椎にできた骨棘が、腕に伸びていく神経を圧迫し、腕がしびれる病気です。
一般に頚椎症性神経根症では、首を反らす、あるいは、首を反らしながら腕のしびれのあるほうへ傾けると、腕のしびれと痛みが強くなります。
症状は、腕のしびれと痛みがメインですが、多くの人で手や指のしびれを伴います。首や肩こり、首の痛みもよくある症状です。まれに両方の腕がしびれることもありますが、片方の腕がしびれるケースが大半です。また、朝起きると腕がしびれていることがあります。重症の人では睡眠中に腕がしびれるため、目が覚めてしまうこともあります。
首を反らしながら症状のある側へ倒すと腕のしびれが悪化する。
頚椎椎間板ヘルニアは、前述の頚椎症性神経根症とほぼ同じ病態で、椎間板の加齢変化や、姿勢の悪さにより椎間板への負荷が増加することで、椎間板が突出し、腕に伸びていく神経を圧迫し、腕のしびれが起きる病気です。
頚椎症性神経根症と同様に首を反らすと腕のしびれが悪化しますが、首を曲げると腕のしびれが強くなることもあります。
症状はやはり頚椎症性神経根症と同様で、腕のしびれと痛みが主です。手のしびれ、首や肩こりなども伴うことが多いです。症状や診察から頚椎椎間板ヘルニアと頚椎症性神経根症を区別することはできず、MRIで診断します。
頚椎症性神経根症とほぼ同じ症状や病態
頚椎の加齢による変形などで脊柱管が狭くなり、脊柱管を通る脊髄が圧迫されて起きる病気です。主な症状の一つが手や腕のしびれです。初期の頃には片方の手や腕にしびれが出ますが、やがて両方の手や腕、さらには足にもしびれが出ることがあります。腕のしびれがあり、頚椎症性脊髄症を疑う場合は、両側の手や腕にしびれがあり、手の微細な運動がしにくくなっているケースです。ボタンをはめにくい、小さい字を書きにくい、お箸を使いにくいいなどの細かな動作が障害されていると、頚椎症性脊髄症の疑いが高まります。
両方の手や腕にしびれ。細かい手の動作の障害も現れる。
20~30歳代の若い人に腕のしびれを起こす病気で、女性に多く発症します。首から腕へ走行する神経の束が、鎖骨と肋骨の間のスペースで、骨や筋肉により圧迫されたり、引っ張られたりして起きます。胸郭出口症候群では神経の束が障害を受けるので、一本の神経が圧迫されて腕や手のしびれを発症する頚椎症性神経根症と比べると、広い範囲にしびれが現れるのが特徴です。腕のしびれは小指側に現れるケースが多くなっています。そのほかの症状は握力の低下、首肩の痛みなどです。
若い女性に多い。腕の小指側にしびれ
橈骨神経麻痺が原因で起きる腕のしびれは、前腕(肘から先の腕)の手の甲側と、手の甲(特に親指側)に現れます。上腕(二の腕)にしびれは出ないのが特徴です。
橈骨神経麻痺は、典型的な例では、深酒するなど、熟睡している間に無意識に上腕で腕枕をして、上腕を走っている橈骨神経が圧迫されて発症します。朝目が覚めると腕がしびれていることに加え、手首に力が入らず手が垂れ下がった状態(下垂手)にもなります。圧迫の時間が短ければ数時間で回復しますが、長いと完全な回復まで数か月かかることがあります。
前腕のしびれに加え、手首に力が入らない
肘部管症候群は、肘の内側にある肘部管という部位で尺骨神経が圧迫されて起きる病気です。尺骨神経が肘部管のところで圧迫されると、小指と、薬指の小指側半分、前腕と手の小指側にしびれが現れます。肘の内側にある肘部管のあたりをトントン叩くと小指にしびれが放散します。
長時間に亘り、肘を深く曲げた状態でいると前腕から小指にかけてのしびれが悪化することが多く、特に寝ている間に無意識に肘を曲げているとしびれが現れます。肘を曲げていてしびれが出た場合、肘を伸ばしてしびれが楽になれば、肘部管症候群である証拠の一つとなります。
小指と薬指、前腕の小指側がしびれる。肘の内側を叩くと小指にしびれが放散。
テニス肘は、上腕骨外側上顆炎とも言われ、手を使った作業をしたり、手で物を持ったりした時に、肘の外側が痛くなる病気です。テニスのバックハンドでは、手首を反らす力を使いますが、手首を反らす筋肉(短橈側手根伸筋)が肘の外側の上腕骨にくっついていて、そこに障害を起こして痛みを発生する病気なのです。テニスプレーヤーに多い病気ですが、手や手首を使った作業をしている人に起きやすく、近年はパソコンのキーボードやマウス操作でテニス肘になる人が増えています。
テニス肘で生じる症状は、ほとんどの場合が肘の痛みなのですが、一部の軽症の人には、痛みはなく「しびれ」だけが現れます。そのためテニス肘は、腕にしびれが起きる他の病気に間違われることの多い病気となっています。
症状がしびれだけの場合、他の病気と間違われやすい
神経の圧迫で腕がしびれる病気は、神経の圧迫を軽減する、あるいは無くすことが腕のしびれの治し方になります。ただ、神経の圧迫の治療は簡単ではなく、高度な技術が必要になります。腕にしびれを起こす病気のなかでも、肩関節周囲炎、テニス肘、手関節部腱鞘炎に関しては、腕のしびれはメインの症状ではありませんが、各病気に即した治療を行うと、メインの症状に加え、腕のしびれも改善します。
腕のしびれは何科を受診すべきか迷うものです。もし、腕のしびれと痛みがメインの症状で、それ以外の症状が無い場合は、病院の整形外科を受診するのが一番のお勧めです。もし、腕のしびれと痛み以外の症状があり、それがメインの症状であるなら、内科の受診をお勧めします。しびれが急に発症した場合は、脳神経外科の受診も考えるとよいと思われます。
腕のしびれの原因で最も多いのは神経の圧迫です。ほかには神経の変性(神経自体の病気)、血管の圧迫も腕のしびれの原因となります。それ以外の原因でもしびれが現れることがあります。腕のしびれを起こす様々な病気を解説します。
神経の圧迫に加え、神経に炎症がある場合は、炎症を鎮める作用のある消炎鎮痛薬が腕の痺れに効くことがあります。代表的な消炎鎮痛剤はロキソニン、ボルタレン、セレコックスなどです。
ビタミンB12は神経機能の維持や修復に必要な栄養素です。神経の圧迫などの神経のダメージで腕のしびれが起きている場合はビタミンB12が効く可能性があります。ただし、一般的な内容の食事を摂っていれば不足しないビタミンです。ですから、不足していない人がビタミンB12を薬で追加摂取しても腕のしびれには効かないでしょう。処方薬ではメチコバール、メコバラミンなどがあります。