【執筆者】整形外科医 竹谷内 康修
慈恵医大卒。福島県立医大整形外科に入局。米国のナショナル健康科学大学でリハビリ技術を習得。2007年東京駅の近くで開業。著書・マスコミ掲載多数。
最終更新日:2021年2月26日 公開日:2019年11月6日
寝違えの原因とその対処法をプロの視点から探る
寝違えは急に起きることが多いのですが、たいていは、その痛みに何とか対処していると徐々に治まります。
そして痛みさえ引いてしまえば、寝違えたことなどすっかり忘れてしまうかもしれません。
ましてや寝違えの原因などを考える事などないでしょう。
しかし、寝違えでの首の痛みは、病気によって生じた立派な症状になります。
その結果、病気の改善や発症の予防に努めなければ次の段階へと進んでしまう恐れがあります。首の痛みに関する著書(「首の痛み」は自分で治せる-マキノ出版刊-)を執筆した院長が、寝違えの原因と対処法などを詳しく説明していきます。
寝違えとは?
寝違えとは一般的に、寝ているときの姿勢が悪かったために生じた首の痛みのことを指します。
ひどい寝違えの場合は、首を前後に曲げ伸ばししたり、頭を左右に動かしたりすると激痛が走り、ほとんど動かせなくなることもあります。
そしてちょっとした動作でも痛むため、上半身を固めた姿勢で過ごしているケースもあります。また、寝違えは、繰り返し起きることがあります。
寝違えの医学的診断は?
寝違えは実際のところ、寝ている間の姿勢が悪かったからだけで発症するとは限りません。
寝違えのような急に生じる首の痛みは、寝ている間だけでなく、日中に始まることも珍しくないのです。
パソコンに向かって仕事をしていたら、だんだん首が痛くなり、首を動かしづらくなったということもよくあります。
寝違えは、医学的な病名ではなく、通俗的な一般の方が使う呼び方です。
寝違えに医学的な診断名をつけると、頚椎症になります。
頚椎症とは、頚椎やその周囲の組織から生じる「痛み」「こり」「張り」などの症状を有する病気のことを指します。
頚椎症の多くは頚椎に骨棘や椎間板の変性などの加齢変化を伴います。
朝起きた時に首が痛くても、日中に首の痛みが始まっても、両者とも頚椎やその周囲から生じている症状であり、頚椎症と診断します。
寝違えのときには首に何が起きている?
寝違えのときには、7個ある頚椎の椎骨の接続部分、つまり椎間関節あるいは椎間板のどこかに急性の炎症が起きていると考えられます。
また、寝違えでは頚椎のまわりの筋肉が固く緊張しています。
これは、炎症を生じている部分をさらに刺激しないように、筋肉が鎧のように固くなって首の動きを制限し、防御していると考えられます。
椎間関節や椎間板の炎症が激しいと、ちょっと首を動かすだけで強い痛みが生じ、首周りの筋肉もガチガチに固くなり、首を動かせないようになります。
寝違えに多いストレートネック
寝違えになって病院に行き、レントゲンを撮ると、ストレートネックですねと言われることがよくあります。
本来、頚椎は前に凸の弓なりのカーブを描きますが、頚椎の配列がまっすぐになっている状態をストレートネックと言います。
ストレートネックは病名ではなく、頚椎の配列の状態を言いあらわした表現です。
ストレートネックがさらに悪化すると、頚椎が後ろに凸のカーブを描くようになります。
最近、若い人にもストレートネックが増加傾向にあるようです。
寝違えの原因とは
寝違えの原因は、寝ているときの悪い姿勢だけなく、いくつかの種類があります。
さらに、一つの原因で寝違えになるよりも、複数の原因が重なって発症することのほうが多いと考えられます。
悪い寝相や寝方で寝違えに
最も一般的な寝違えの原因は、悪い寝相や寝方です。
寝ている間に長時間にわたって首が反り過ぎていたり、横に曲がり過ぎたりすると、頚椎の一部分に過剰な負担がかかり、やがて痛みがあらわれます。
そして朝起きた時に、首が痛くて動かせない状態になっています。
枕が合っていないと寝違えに
高すぎる枕、低すぎる枕、首元が盛り上がっている枕、タオルを重ねただけの低い枕。
様々な高さや形の枕がありますが、使っている枕が首に合っていないと、頚椎に負担がかかって寝違えの原因となります。
肩こりが寝違えの原因?
寝違えを起こす人は、もともと肩こり持ちであることが多くなっています。
肩こりは、首や肩まわりの筋肉が固く収縮しつづけた状態です。
筋肉は本来、姿勢を維持したり、骨を動かしたりするときに収縮し、その必要が無くなると緩みます。
しかし、肩こりではずっと筋肉が収縮しつづけて、緩まなくなっているのです。
首肩まわりの筋肉が緩まずに収縮し続けると、筋肉が頚椎を長時間にわたって押しつぶすことになります。
すると次第に頚椎が傷み、やがて寝違えの痛みとしてあらわれます。
重度の肩こりの人は、横になって寝ていても首や肩の筋肉の力が抜けず、寝違えを起こしやすくなるのです。
姿勢が悪いと寝違えに
姿勢の悪さは、寝違えの立派な原因の一つと考えられます。
例えば、スマホを使っているときの姿勢を考えてみましょう。
首を大きく前に倒した姿勢になりますね。真正面を向いた時の姿勢と比べ、首を前に30度倒した場合は約4倍、60度倒した場合は約6倍もの負荷が首にかかります。
悪い姿勢で1日に数時間もスマホやパソコンを使っている人は、寝違えの予備軍といえるでしょう。
ストレスや疲労で寝違えに?
ストレスや疲労が寝違えの原因と言うと、すぐにはピンと来ないかもしれません。
しかし、これらも立派な原因です。まず、ストレスが高まる状況を考えてみましょう。
例えば、上司に理不尽な仕事の要求をされた、友人が自分の悪口を言っていることを知った、職場の席替えで嫌いな同僚と隣同士になったなどです。
そのようなときには、無意識に首や肩に力が入る感じがしますよね。
また、残業が続いて疲労がたまってくると、ポンポンと肩を叩いてほぐしたくなりますよね。
ストレスや疲労は、首肩まわりの筋肉を緊張させて、寝違えを起こす原因となるのです。
その寝違えは頚椎椎間板ヘルニアかも!?
寝違えた人の首のレントゲンを撮ると、多くの場合、頚椎の前弯が無くなって、真っすぐになったストレートネックの状態が見らます。
頚椎は通常、横から見ると前に膨らんだ緩やかな弧を描く配列をしていますが、配列の丸みが無くなってしまうのです。
ひどい場合はストレートネックより悪化して、後ろに弧を描く後弯の状態になっていることがあります。
30代にもなると、寝違えの人には頚椎の変形がみられたり、頚椎の間にある椎間板がつぶれて椎骨同士のすき間が狭くなった状態がみられたりすることもあります。
そのように病態が進むと、椎間板が後ろに出っ張った頚椎椎間板ヘルニアを伴っていることがあります。
頚椎椎間板ヘルニアは、腕の痛みやしびれを引き起こす厄介な神経障害の原因の一つです。時には手に力が入らなくなることさえある怖い病気です。
腋窩神経障害で寝違えが起きる? ? ?
医療少年漫画の「ゴッドハンド輝」の中で、寝違えが取り上げられていて、原因と治療法が描かれています。
そして、寝違えの原因は腋窩(えきか)神経障害だと説明されているようです。
ところが腋窩神経は、主に肩まわりの筋肉を支配しているものの、首のほうには伸びて行きません。
そのため首には直接的には関係していません。また、腋窩神経が障害されると、腕を上げにくくなるはずですが、
寝違え患者さんでそのようなケースは皆無です。
腋窩神経障害が寝違えの原因だというのは、漫画の世界の作り話であって、それを決して真に受けてはいけません。
当然、「ゴッドハンド輝」に出ている寝違えの治療法も怪しいものだと言わざるを得ません
寝違えが腕のしびれの原因に!?
先ほど寝違えの医学的診断名は頚椎症だということを述べました。
頚椎症はおもに加齢変化で生じてきますが、頚椎の加齢変化には、骨の変形、骨のとげ(骨棘)、椎間板が潰れて薄くなること、頚椎同士をつなぐ靭帯の肥厚などがあります。
これらの変化によって、椎骨同士のすき間が狭くなりますが、椎骨の間から出て、腕に向かって伸びて行く神経の通り道も狭くなります。
神経の通り道が狭くなりすぎると、神経が圧迫されて、腕に痛みやしびれが出ることになります。
腕に痛みやしびれが出た状態は、頚椎症性神経根症といいます。
寝違えを根本から治さずに、頚椎症が進行してしまうと、腕の痛みやしびれを伴う頚椎症性神経根症になってしまうかもしれません。
なお椎間板が大きく膨隆して神経を圧迫し、腕に痛みやしびれが出ている場合、頚椎椎症性神経根症とは言わず、頚椎椎間板ヘルニアと呼びます。
寝違えは痛みさえ無くなれば放っておいていい?
寝違えは、繰り返し起きることが多く、慢性化して常に首に痛みを感じるようになることもあります。
たとえ強い痛みが引いたとしても、寝違えた原因が残ったままだと、慢性化や再発の恐れがあります。
喉元過ぎれば熱さを忘れるではいけないのです。そして、寝違えには一人一人異なる原因があり、首のどこから痛みが起きているのか、何が原因で首が傷んでしまったのかを正しく捉え、きちんと対処をしていく必要があります。
寝違えの応急的な対処法:サポーター
寝違えの痛みが強く、とにかく何とかできないのかと困ったときの応急的な対処法をお伝えしましょう。
ひどい寝違えを患った場合は、頭をちょっと動かしただけで激しい痛みが走るので、頭を手で支えて過ごす人もいます。
そのような場合は、首にサポーターを使うとよいでしょう。頚椎の動きを制限するサポーターの一種は、頚椎カラーといいます。
頚椎カラーを装着すれば、頭(首)を動かしにくくなって痛みが和らぎます。入手しやすいならば試してみましょう。
寝違えに効果的なストレッチ
寝違えでは首や肩まわりの筋肉が固まった状態になっているので、それをストレッチでゆるめれば、痛みが和らぎます。
ただし、無理にストレッチをしようとすると逆効果となるので、できるだけやさしくストレッチを行う必要があります。
ここではやさしく行なうストレッチをご紹介します。
首の状態によっては下記のストレッチが合わないこともあるので、よくならない、あるいは痛みが出るなどの場合には、すぐに中止しましょう。
①前頚部のストレッチ
寝違えた状態では、首の前側の筋肉が特に張っているので、前頚部の筋肉をやさしく徐々にストレッチしていきます。1回30秒程度行ないます。
机に肘をつき、両手で顎を支えて首の前の筋肉を伸ばします。
寝違えを予防するには、寝違え首の片側をそれぞれ伸ばすようにするのもよいでしょう。
②後頸部のストレッチ
同様に首の後ろ側の筋肉も固くなっているためゆっくりとストレッチします。
ソファーなどのイスに寝そべるように寄りかかり、両手で後頭部をやさしく痛くないように押して頭の付け根や首の後ろ側を伸ばします。1回30秒程度行ないます。
寝違えの予防法
寝違えを予防するには、寝違えの原因を正す必要があります。さまざまな予防法がありますので、実践してみましょう。
予防法その1 姿勢を正そう!
先ほど姿勢が悪いと寝違えになるとお伝えしました。特に座り姿勢を改善すると、寝違えの予防につながります。
ではどのように座るとよいのでしょうか?
まず椅子に深めに座ります。骨盤を立て、背筋をぴんと伸ばします。
そして、背もたれへしっかり寄りかかり、背中と骨盤を支えます。
パソコン作業をするなら、肘が体の横から離れないようにキーボードを配置します。
スマホを使うなら、食卓に肘をつき、スマホを目の高さに近づけて操作します。
椅子を引いて座ることが大切です。これで姿勢がかなりよくなるはずです。
予防法その2 ストレスを減らそう!
ストレスがあると、無意識に首や肩の筋肉に力が入り、寝違えの原因となるとお伝えしました。
ストレスを自覚していれば、それに対処できますが、往々にして自分にどのようなストレスがあるのかを十分に把握していないものです。
ふと立ち止まり、何が自分にストレスになっているのかを考えてみましょう。
そして、避けられるストレスがあればできるだけ避けていきましょう。
ストレスをため込む人ほど、真面目で余計な仕事まで引き受けてしまっているものです。
多忙はストレスの原因となります。「今の私にはそれは無理です!」と断る勇気を持ちましょう。
寝違えは、ストレスが溜まり過ぎて、体から発せられた警告信号の一つと捉えられるのです。
ストレスを放置しておくと、からだに別の不調が出てくる恐れもありますよ。
予防法その3 疲れを取ろう!
疲労が蓄積してくると、肩こりが悪化して、寝違えの原因となります。
ストレスは、疲労の原因となります。
疲れを取るには、何より睡眠時間の確保と規則正しい生活です。
決まった時間に横になり、たっぷりと寝る。当たり前ですが、忙しい現代生活ではそれを実行しにくいものです。
しっかり寝ずに、疲れを取ることはまずできません。
そんな当たり前のことを言われても、という方にお勧めなのが、疲労回復に効くと言われているサプリメントの摂取です。
イミダゾールジペプチド(略してイミダゾールペプチド、イミダペプチド、)という物質は、鶏の胸肉に含まれている成分で、抗酸化作用があり、疲労によいと言われています。
渡り鳥は、何日も空を飛び続けることができるのは、イミダゾールペプチドのおかげと考えられているようです。
鶏の胸肉を毎日食べてもいいのですが、サプリメントとして売られているので試してみるとよいでしょう。
予防法その4 運動をしましょう!
寝違えの原因の一つ、ストレスの解消には、何より運動がお勧めです。
現代人が毎日歩く歩数は、減少傾向をたどっていると言われています。
運動で体を使うと、皮膚や関節などからたくさんの刺激が脳に入り、脳が活性化してストレスが解消されやすくなります。
まずは手軽にできるウォーキングや自宅での筋トレから始めるとよいでしょう。
寝違えのときにしてはいけないこととは?
寝違えをしたときには、首や肩の筋肉がとても固く緊張した状態になっています。
そのため、首や肩の筋肉をゴリゴリと強くマッサージをしてしまう人がいます。
しかし、強いマッサージは寝違えにはすべきではありません。
なぜなら、寝違えでは頚椎の関節などに炎症が起きているので、強いマッサージは、炎症を起こしている部位を刺激してしまい、かえって痛みが増してしまうおそれがあるからです。
寝違えに関する深い知識や高い技術がない人に、マッサージをしてもらうことはやめたほうが賢明です。
寝違えの病院、整形外科での治療法
寝違えで整形外科などの病院、医院を受診すると、どのような治療が行われるかをご説明しましょう。
最も一般的なのは、消炎鎮痛薬の内服や湿布による治療です。寝違えでは頚椎周囲の組織に炎症が生じているので、消炎鎮痛薬が効果的です。
ただ、ひどい寝違えでは薬の効果が十分にあらわれないこともあります。消炎鎮痛薬に加え、首周りの筋肉の緊張を和らげるため、中枢性筋弛緩薬も合わせて投与されることがあります。
医療機関によっては、首のサポーターの一種の頚椎カラーを出してくれるところもあるでしょう。
さらに、理学療法として、超音波や干渉波、牽引、ホットパックなども行われることがあります。
寝違えには温める?冷やす?
寝違えでも重症な場合は、頚椎の関節や椎間板などに強い炎症が生じていると考えられます。
そこで、重症の寝違えでは炎症を鎮めるために冷やせば鎮痛効果があるでしょう。
十分に冷やすと、患部周囲の神経が麻痺して痛みの感覚が脳へ伝わりにくくなるからです。
一方で、寝違えの首の痛みが慢性化してしまったケースでは、首の筋肉の緊張が高いならば、首を温めて緩めることも有効だと考えられます。
湿布は寝違えに効きますか?
整形外科などの病院で処方される湿布には、消炎鎮痛薬が含まれているので、寝違えには効く可能性があります。
湿布を貼ると、消炎鎮痛成分が皮膚から吸収されて、首の周囲に生じている炎症を鎮めてくれるからです。
湿布に関し、勘違いをしている人が多いのですが、湿布には冷やしたり温めたりする効果はほとんどありません。
冷湿布には、ヒヤッと感じさせるメンソールが含まれるものの、冷却効果はありません。
ただし、湿布には水分を多く含むものがあり、張った瞬間にメンソールと水分の冷たさで、冷やされたように ”感じる” ことはあるでしょう。
一方、温湿布には、カプサイシンという唐辛子の成分が含まれていて、ピリピリ感がありますが、温湿布が熱を出すわけではありません。あくまで湿布の効果は消炎鎮痛薬の成分によるものなのです。
当院での寝違えの治療法
当院の寝違えの治療は、手を使った治療を始めとしたリハビリテーションを中心に行っています。
首や肩の筋肉の緊張を緩和する手による治療、頚椎の関節の調整、首の土台となる胸椎や胸郭の調整、姿勢指導、姿勢を改善するストレッチ指導、生活習慣の改善指導などにより、寝違えの痛みの緩和と、寝違えの根本的な原因の解消も図ります。