【執筆者】整形外科医 竹谷内 康修
慈恵医大卒。福島県立医大整形外科に入局。米国のナショナル健康科学大学でリハビリ技術を習得。2007年東京駅の近くで開業。著書・マスコミ掲載多数。
最終更新日:2021年3月16日 公開日:2019年1月16日
頚椎症性神経根症のこのような症状でお困りではありませんか?
・腕が痛くて仕方がない
・手の指がしびれる
・症状がひどくなるので仰向けでは寝られない
・顔を上にむけると腕の痛みやしびれが強くなる
・首から肩にかけて痛む
・肩甲骨の内側や脇の下に痛みがある
・手に力が入らない
どんな人が頚椎症性神経根症になりやすい?
・姿勢が悪い人
・デスクワーカー
・スマホを見る時間が長い人
・長年、肩こりがある人
・寝違えを繰り返している人
・ストレスが多い人
頚椎症性神経根症とは
頚椎症性神経根症とは、ごく簡単に説明すれば、神経根が圧迫されて、首、肩、腕、手に痛みやしびれなどの症状が起きる病気です。神経根とは、神経が脊髄から枝分かれしたすぐそばの部分のことをいいます。神経根は7つある頚椎の間を通るので、頚椎に加齢変化が起き、頚椎同士の隙間が狭くなると、圧迫されて様々な症状を起こします。
院長の著書を元に、頚椎症性神経根症の症状、原因、治療法、自分で治す方法などを解説していきます。
頚椎症性神経根症の症状
痛み、しびれ
腕の痛みとしびれが頚椎症性神経根症の最も特徴的な症状です。手のしびれ、指のしびれもとても多い症状です。そのほかには、首の痛み、肩の痛み、肩甲骨の内側あたりの痛み、脇の下付近の痛みがあります。
動作や姿勢で悪化
首を後ろに反らす、つまり上を見上げると痛みやしびれが悪化します。首を左右に回したり、傾けたりすると痛みやしびれが誘発されます。さらに、仰向けで寝る、うつぶせ寝をする、同じ姿勢を長い時間続ける等々で症状がひどくなるので要注意です。
筋力低下
神経根の圧迫度合いが大きいと、手や腕の脱力が生じます。握力が低下したり、指をピンと反らすことができなくなったりします。時に腕が持ち上がらなくなる人もいます。
皮膚感覚の低下
指先の触った感覚が無くなったり、腕の皮膚の感覚が鈍くなったりします。
片側に起きる
ほとんどの場合、症状は片側の腕や手に現れます。まれに左右両方の神経根が同時に圧迫されて、両側の腕や手に痛み、しびれが現れることがあります。
頚椎症性神経根症の原因
不良姿勢で頚椎に何倍もの負荷がかかる
なぜ骨棘が大きくなり、頚椎症性神経根症になってしまう人がいるのでしょうか。頭が重たい人がなりやすいのでしょうか。それもあるとは思われますが、より重要な原因は、不良姿勢です。姿勢が悪く、猫背で頭が前に突き出た姿勢では、頚椎が30度前に傾くと、頚椎にかかる負担が4倍にもなると言われています※。姿勢が良い人に比べて何倍もの負荷が頸椎にかかり続ければ、骨棘が大きく成長してしまうのもお分かりになるでしょう。
※Hansraj K.K.: Assessment of Stresses in the Cervical Spine Caused by Posture and Position of the Head. Surg Technol Int. 2014 Nov;25:277-9.
慢性的な筋肉の収縮が骨棘の原因に
頭が前に突き出た悪い姿勢をしているときには、頭が垂れ下がらないように、頚椎周囲の筋肉が固く収縮し、頭を支えています。不良姿勢が長く続くと、首の筋肉はずっと固く収縮していることになります。その結果、首の筋肉は緩むことができなくなるのです。例え横になり、寝た姿勢になっても首の筋肉の収縮は、持続してしまうのです。
つまり姿勢の悪い人は、24時間、365日にわたり筋肉の慢性的な収縮で頚椎が圧迫され、大きな骨棘を形成してしまうのです。
慢性的な筋肉の収縮は、首こりや肩こりとして自覚されていることが多いものです。しかし、たとえ筋肉が固く収縮していても、全く自覚していない人もいます。肩こりの自覚が無い人が美容院や床屋に行き、肩が凝っていますねと言われて初めて筋肉の固さに気付かされることがあります。
筋肉の収縮が椎骨の隙間を狭めて神経根を圧迫
前述のように、骨棘が大きくなって神経根の通り道が狭くなることが頚椎症性神経根症の一因です。それに加え、慢性的な頚椎周囲の筋肉の収縮が次のようなことを起こし、もう一つの原因となります。
首の筋肉が収縮すると、椎骨同士の隙間が狭まります。神経根は椎骨同士の隙間を通っていますが、すでに骨棘で通り道が狭い上に、首の筋肉の収縮が加わり、神経根が圧迫され、頚椎症性神経根症の症状が出ることになります。
頚椎症性神経根症の発症が多い年齢は?
頚椎症性神経根症は、40代、50代が最も多い年齢になります。頚椎症性神経根症は、主に頚椎の加齢変化によるものなので、もちろん60代、70代での発症も多いです。しかし、ストレスによる頚椎周囲の筋肉の固さも大きく影響しているため、60代、70代といった退職後の世代よりもストレスの多い現役世代の40代、50代により多いと考えられます。
最近は、スマホ首といい、スマホ使用時に頭を垂れた姿勢で首を悪くする人が増え、20代、30代での発症も増加している印象があります。
頚椎症性神経根症とヘルニアの違い
頚椎症性神経根症は、骨棘が神経根を圧迫して、腕や手に痛みやしびれを起こしますが、頚椎椎間板ヘルニアは、軟骨である椎間板が加齢によって張り出して、神経根を圧迫して症状を起こします。言い換えると、骨が変形しやすい人が頚椎症性神経根症になり、椎間板が傷んで出っ張りやすい人が頚椎椎間板ヘルニアになるわけです。
頚椎症性神経根症と頚椎椎間板ヘルニアでは、神経根の圧迫のされ方に大きな違いがありません。なぜなら、骨棘とヘルニア部分は隣同士だからです。その結果、現れる症状も同じになるのです。ですから、症状や診察から頚椎症性神経根症と頚椎椎間板ヘルニアを見分けることはほぼ不可能です。MRI画像でしか区別がつきません。さらに、治療法も手術以外は同じなので、手術を受けるのでなければ、両者を区別することに意味はありません。
頚椎症性神経根症の簡易な検査・診断法
神経根が通る頚椎の隙間は、首を後ろに反らすと狭くなり、首を前に曲げると広がります。頚椎症性神経根症の人は、首を後ろに反らすと腕や手にしびれ、痛みなどの症状が現れます。反らしただけでは症状が出ない人もいますが、首を後ろに反らしながら、右手にしびれがある人は、右に首を倒すと、症状が誘発されます。左手にしびれがあるなら、首を反らしながら左へ倒します。これはスパークリングテストといい、簡易な検査ですがとてもよい診断法です。
参考文献:頚椎症性神経根症 (圧迫された神経)
頚椎症性神経根症では病院の何科にかかる?
頚椎症性神経根症の診断や治療を最も多く行っているのは何科でしょうか?
それは整形外科です。腕の痛み、手のしびれなどで患者さんがまず行くのは、病院の整形外科が多いからです。頚椎症性神経根症が治らない人には手術を行いますが、整形外科が最も多く手術を手掛けています。
頚椎症性神経根症の手術は一部の脳神経外科でも行っていますので、脳神経外科も受診する選択肢の一つではあります。しかし、脳神経外科はリハビリを含めた手術以外の総合的な治療に長けてないこともあるので注意が必要です。
また、神経が専門の神経内科でも頚椎症性神経根症を診てくれるでしょう。激しい症状がある場合は、後述するようにペインクリニックでブロック注射を受けるのも選択肢です。ただやはり最初に行くのは整形外科がお勧めです。
頚椎症性神経根症の病院での治療法は?
頚椎症性神経根症の薬の治療
頚椎症性神経根症に効く痛み止めとして病院でよく処方されるのが、ロキソニン、セレコックス、ボルタレンなどの消炎鎮痛薬です。
痛み止めとして、アセトアミノフェン(カロナール、タイレノールなど)も欧米ではよく使われます。
首の筋肉を緩めるためにミオナール、リンラキサー、テルネリンなどの筋弛緩薬を使うことも多いです。
ロキソニンなどの痛み止めが効かない場合、最近はリリカ(プレガバリン)という強めの鎮痛剤を使うことが多くなっています。
激しい痛みに対しては、トラマールやトラムセットなどの麻薬と似た作用を持つ薬を使うこともあります。
ただし、消炎鎮痛薬は胃潰瘍などの副作用があり、リリカやトラマールなどはふらつき吐き気などの副作用が比較的多いので注意が必要です。
頚椎症性神経根症の注射の治療
一部の整形外科やペインクリニックでは、頚椎症性神経根症の激しい痛みに対し、神経根ブロック注射や星状神経節ブロック注射を行うことがあります。
神経根ブロック注射は、キシロカインなどの麻酔薬を神経根の周囲にばらまき、神経を麻痺させ痛みの伝達を遮断します。麻酔薬の効果が切れると痛みがぶり返すことが多い治療法です。
星状神経節ブロックは、首を通る交感神経を麻痺させて、筋肉を緩め、腕の血流を増やして症状を緩和させる治療法です。
両方の注射とも、危険な割に効果は一時的で治ることは多くないので、激しい痛みに困った人が受ける治療法です。ちなみにしびれには効果はありません。
頚椎症性神経根症の病院でのリハビリ
頚椎症性神経根症に病院で行うリハビリで最も一般的なのが、頚椎の牽引です。しかし、整形外科で使われているほとんどの牽引の器械は、首をまっすぐ上に引っ張るだけのものです。頚椎はまっすぐに引っ張っても隙間が広がるのはごくわずかに過ぎません。ですから、頚椎牽引で効果が出るのは、軽症のごく一部の人に限られます。
整形外科の病院では首肩のマッサージをしたり、ホットパックで温めることをしたりするかもしれません。また、干渉波などのリハビリも行われています。しかし、頚椎症性脊髄症ではそれらのリハビリにあまり効果は期待できません。
頚椎症性神経根症の完治を目指す当院のリハビリ治療
前述のように、頚椎症性神経根症は、不良姿勢とそれによる慢性的な頚椎周囲の筋肉の収縮、すなわち首こりが原因です。そこで、当院のリハビリは、不良姿勢で猫背に固まっている背骨を手で調整すること、首の筋肉を手で緩めることの2つがメインの治療となっています。
治療で首の筋肉を緩めた上で、院長が考案したストレッチで頚椎の隙間を広げます。完治する人も少なくありません。
頚椎症性神経根症に効くストレッチ体操
ここでは、院長が考案した頚椎症性神経根症に効果のある「首伸ばし」というストレッチ体操をご紹介します。院長の著書「自分で治す!頚椎症」(洋泉社刊)の一部を引用して解説します。
首伸ばしというストレッチ体操は、頭の重さを利用し、頚椎を伸ばしながら前に曲げる体操です。立ったまま手を後頭部に当てて頭を下げ、首を伸ばしつつ頭を股の間に押し込むようにします。30秒位その姿勢を維持します。休憩を取りながら3回繰り返し、1日に何度か行います。
なお、高血圧や脳神経に持病のある人、体操でふらつく人などは行わないでください。また、猫背を治さずに、あるいは首の筋肉の固さを治さずに首伸ばしをしても、首伸ばしの本来の効果は十分に出ないことがあります。
頚椎症性神経根症に良い枕とは?
頚椎症性神経根症に良い枕とは、低い枕でしょうか。高い枕でしょうか。
あるいは首を持ち上げるような首枕でしょうか。
頚椎症性神経根症では、首を反らすと神経根の通る頚椎の隙間が狭くなります。
仰向けで低い枕や首枕は、首が反った形になるため良くありません。逆に高い枕を使うと、首が前に曲がった形になり、頚椎の隙間が広がります。
つまり、頚椎症性神経根症に良い枕とは、高い枕です。ただし、すべての頚椎症性神経根症の方に有効であるとは限りません。
頚椎症性神経根症が治らない、再発するのはなぜ?
頚椎症性神経根症が治らないのはなぜ?
頚椎症性神経根症が治らない理由は2つあります。1つ目は姿勢が悪いままであること、つまり猫背が続いていること、2つ目は首の筋肉が固いままであることです。姿勢が悪く、猫背のままだと頚椎への負荷が大きく、骨棘が成長し続けてしまいます。そして、頭を支えるために首の筋肉が固く緊張し続け、神経根が圧迫されたままになります。つまり、この2つを解消していないから頚椎症性神経根症が治らないのです。
頚椎症性神経根症が再発する理由は?
・痛み止めで姿勢の悪さや筋肉の固さは変わらない
頚椎症性神経根症の患者さんが、病院で痛み止めの薬をもらって服用しただけで痛みやしびれが無くなることがあります。それは、神経根への圧迫は続きながらも、神経根に生じていた炎症が収束し、さらに神経根が圧迫に慣れて元気を取り戻したため、症状が無くなったのです。しかし、姿勢の悪さや首の筋肉の固さは治っていないので、骨棘がさらに大きく成長すると頚椎症性神経根症の再発が起きてしまいます。
・症状が無くなっても治っていない
痛み止めの薬を飲んで症状が無くなると「治った」と思う人がいますが、そうではありません。例えば、高血圧や糖尿病の初期には、血圧や血糖値が高めでも症状はありません。しかし、健康診断を受けると異常を指摘され、病院で治療を受けるよう指示されます。なぜなら高血圧や高血糖が続けば、脳梗塞や心筋梗塞、あるいは、網膜症や腎不全などの重大な病気につながるからです。たとえ症状が無くても病気の状態であることがあるのです。
・再発やより重症な頚椎症性脊髄症の発症も
内科的な病気だと、症状が無いけれど治っていない病気があるのを理解しやすいと思います。頚椎症性神経根症も、鎮痛剤などの薬で症状が無くなっても、姿勢の悪さや首の筋肉の固さは変わりませんので、治ったのではなく、症状がおさまった状態に過ぎないのです。ですからいずれ頚椎症性神経根症が再発したり、骨棘が大きく成長し、はるかに重症な頚椎症性脊髄症を発症したりすることがあるのです。姿勢の悪さや首の筋肉の固さを治す治療がいかに大切かお分かりになると思います。