【執筆者】整形外科医 竹谷内 康修 

慈恵医大卒。福島県立医大整形外科に入局。米国のナショナル健康科学大学でリハビリ技術を習得。2007年東京駅の近くで開業。著書・マスコミ掲載多数。

最終更新日:2021年2月20日 公開日:2019年12月12日

妊婦の腰痛で悩んでいませんか?

・激痛で寝れない。
・どこの病院に行けばいいか分からない。
・妊娠中に安全なストレッチが知りたい。
・腰痛の対策グッズの選び方が分からない。
・夫にマッサージをしてもらっていいのか悩む。
・クッションやベルトがいいのか知りたい。
・楽な寝方が分からない。

妊婦の腰痛はいつから起きますか?

妊婦さんの腰痛がいつから起きるかというと、妊娠4~5か月目以降、お腹が大きくなると腰の痛みを訴える妊婦さんが増え、8~10か月目で腰痛は最も強くなります。痛む場所は、腰、お尻、恥骨(骨盤の前)、尾骨、足の付け根(鼡径部)などです。出産後、通常は痛みが軽減しますが、痛みが治まらず腰痛が慢性化してしまう方も多くいます。腰痛で歩けないなど日常生活に支障が出たり、痛みがあることのストレスで体調が悪くなったりしてしまうのは、妊娠中や産後のお母さんにとって大きな問題です。

参考文献:妊婦および褥婦における腰痛の実態調査

妊婦の腰痛の原因

妊婦の腰痛は、お腹が大きくなって腰が反るなど負担がかかること、ホルモンの影響で骨盤がゆるむこと、妊娠・出産のストレスなどが原因になって起こります。

腰椎の過剰前弯

腰は少し反った姿勢が正常です。しかし妊娠中はお腹が大きくなるので腰椎が前下方へ引っ張られ、腰の反りが徐々に大きくなっていきます。そのため腰椎や骨盤と、それを支える筋肉に負担がかかり、痛みの原因となります。お腹が大きくなるにつれ、腰の反りも大きくなると、仰向けで寝ることがつらくなったり、立っているだけでも腰が痛くなったりすることがあります。

参考文献:妊婦の姿勢と腰痛

骨盤のゆるみ

妊婦の腰痛のもう一つの原因はホルモンの影響です。妊娠中はリラキシンというホルモンが多く分泌され、骨と骨をつなぐ靭帯が柔らかくなっています。靭帯が柔らかくなることで産道が広がることができるのです。一方で、骨盤がゆるんで不安定になってしまうので、仙腸関節(骨盤の後ろ側の関節)や恥骨に痛みが出ることがあります。また、もともと骨盤を支える筋肉が弱い方はより症状が出やすくなります。

ストレス

妊娠中は、子供を産み育てる明るい未来に胸を膨らませる一方、様々なストレスを抱える時期でもあります。ストレスの原因は、つわりを始めとするホルモンバランスの変化による体調悪化、急速な体重増加、出産の痛みへの恐怖、産後の子育ての不安、仕事を中断したり辞めたりすることへの不安など多岐にわたります。またお腹が大きくなると、体を動かしづらくなって外出を控えるようになると、ストレスがさらに募ります。ストレスが高まると体が緊張状態に陥ります。すると腰や骨盤周りの筋肉も凝ってしまい、腰痛の原因となります。

参考文献:腰痛のある妊婦の日常生活の実態に関する研究

妊婦さんの腰痛への当院での安全な治療

妊婦さんの腰痛に当院では薬を使わず安全な手で行うリハビリ治療を行っています。妊婦の腰痛の当院の治療を解説したページはこちら。

医師が勧める妊婦の腰痛の治療法や対処法

妊婦さんは、安全性に不安のある痛み止めなどの薬より、これからご説明する対処法や対策グッズを試すことをお勧めします。

腹帯、コルセット、ガードル等のサポーターが腰痛対策に

妊娠5か月目の戌の日に、安産を祈って腹帯を巻く習慣があります。その腹帯や、幅が広い妊婦さん用のコルセット、あるいはガードルは、妊娠中に大きくなったお腹を前から支え、腰の反りが大きくなり過ぎないようにします。特に、もともと反り腰で腰痛に悩む妊婦さんは、お腹が大きくなったら腹帯やコルセット、ガードルなどのサポーターを腰痛対策に使ってみるとよいでしょう。

骨盤ベルトも一つの腰痛対策グッズ

産後に緩んだ骨盤を締めるために骨盤ベルトを使うことがよくあります。妊娠中の腰痛にも骨盤ベルトを使うと、出産に向けてゆるみ始めた骨盤が安定化し、腰痛が緩和することがあります。妊婦さんが使う骨盤ベルトなどのグッズは、一般的な腰痛に使用するコルセットと違い、骨盤の前の部分がとても細く、お腹を圧迫しないようになっています。とは言うものの、妊娠後期にはお腹が大きくなって使いづらくなります。

参考文献:妊婦腰痛に対する骨盤輪固定ベルトの有用性 : 骨盤周囲径と表面筋電図よりみた有用性の検討

抱き枕などのクッションが腰痛対策に

妊娠後期にお腹が大きくなると、仰向けで寝るのが辛くなり、楽な寝方が限られてきます。腰痛のある妊婦さんは、腰が痛くて寝れないこともあります。そんなときに役立つのが抱き枕などのクッションです。抱き枕を使った横向きの寝方は、姿勢が安定化して眠りが深くなります。すると、凝り固まった腰が深い睡眠によってゆるみ、腰痛が改善しやすくなります。
円座クッションや、骨盤を整える機能をうたう妊婦さん向けのクッションもあります。しかし、そのようなクッションで骨盤を「整える」必要はありません。妊娠中にゆるんだ骨盤の靭帯は、産後に自然に元に戻るからです。もちろん、良い姿勢がとりやすいクッションは、妊婦さんでなくても腰痛を和らげる場合があります。

妊婦さん向けのストレッチ体操

妊娠中はお腹が大きくなると、行えるストレッチ体操に限りがありますが、座位や立位で気軽にできるものなどお勧めの3種類のストレッチ体操をお伝えしましょう。

反り腰による腰痛への腰丸めストレッチ体操

妊娠後期にお腹が大きくなり、反り腰となって腰痛になった人には腰を丸めるストレッチ体操がお勧めです。椅子に浅めに腰かけ、両膝を左右に大きく広げます。そして深く前にかがみ、お腹が圧迫されないように腰を丸めます。床に手を着き椅子から落ちないように気を付けます。これならお腹が大きくても腰の後ろ側の筋肉をストレッチできます。10~20秒くらい保持し、これを3回繰り返します。

立位でできる腸腰筋ストレッチ体操

腰痛に深く関係している腸腰筋を伸ばすストレッチをお伝えします。腸腰筋は腰の前側から鼡径部を通って大腿骨につきます。鼡径部を後ろに伸ばすようにすれば腸腰筋のストレッチができます。左側の腸腰筋のストレッチ体操のやり方は、まず左足を後ろにし、右足を前にして、前後に足を大き目に開きます。上半身を少し後ろへ倒し気味にしながら、前足の右膝を曲げて腰を落としていきます。すると左側の鼡径部、すなわち腸腰筋がストレッチされます。10~20秒くらいストレッチし、これを1~3回繰り返します。

立ってできるハムストリングのストレッチ体操

ハムストリングも体が固い人で腰痛の原因となる筋肉です。ハムストリングは太ももの裏側の筋肉です。ハムストリングのストレッチは、ラジオ体操にもあります。左側のハムストリングをストレッチするなら、まず両足を大きく開いて立ち、左の膝に両手を当てます。右膝を曲げていき、腰を落としていきます。同時に上半身を左の膝のほうへ倒していくと左側のハムストリングが伸びます。10~20秒くらい保持し、これを3回繰り返します。

ソファーに座ると腰痛い妊婦さんの対処法

ソファーに座ったあとに立ち上がると、腰が痛くなって動けないという妊婦さんは多いものです。そのような場合、ソファーが柔らかくて座ると沈み込み過ぎている可能性があります。ソファーに座るより、座面にしっかりとした硬さのある椅子に座るほうが腰痛の予防になります。やむを得ず柔らかいソファーに座るなら、お尻の下にクッションや折りたたんだバスタオルなどを敷くとよいでしょう。

寝ると腰痛い妊婦さんによいマットレスとは?

固めのマットレスに寝ると、腰に大きなくびれがある女性では、マットレスと腰の間に隙間ができやすくなります。隙間ができると、そこには腰の支えが無いので腰痛が出やすくなってしまいます。ところが低反発マットレスなど、ある程度沈み込んでくれる敷布団に寝れば、腰と布団の間に隙間ができないため、腰痛が起きにくくなります。ただし、産後に赤ちゃんと一緒に寝る際は、低反発マットレスなど柔らかめの敷布団を使うことは禁物です。赤ちゃんが寝返りしてうつ伏せになると、窒息しやすいからです。ご注意を。

腰痛の妊婦さんはマッサージを受けていい?

マッサージは、腰痛に一定の効果があると言われています。しかし、マッサージは通常うつ伏せになって受けますが、妊婦さんはうつ伏せにはなれません。もちろん、妊婦さんに対応した特殊なベッドのある施設では、妊娠中でもマッサージを受けられますが、ごく一部に過ぎません。さらに、街中でマッサージを提供している多くのリラクセーション施設では、マッサージ師などの国家資格を持たない人が治療しています。安全を求めるため、治療をする人が国家資格を有しているかどうか、妊娠中にはよく調べてから受けたほうがよいでしょう。

ご主人に簡単なマッサージをしてもらうのは、ただでさえストレスの多い妊娠中に癒しとなって良いとは思います。しかし、本格的な腰痛が治ることは期待しないほうがよいと思います。

妊娠中の腰痛に湿布は使っていい?

湿布は薬ではないと思っている方がいらっしゃいますが、病院で処方される湿布や、薬局で売っている湿布は、非ステロイド性消炎鎮痛薬というれっきとした薬です。湿布だから胎児に安全だとは決して言えません。ある種の薬が、妊婦さんへ投与すると子供が発達障害になりやすいと最近判明したものがあります。妊婦さんが使って胎児に安全だと保障されている薬はないと思ったほうがよいでしょう。妊娠中に安易に湿布を腰痛に使うべきではありません。